水平線の絶景駅「下灘駅」とあたたかな歓迎に出会える観光列車「伊予灘ものがたり」【愛媛】

伊予灘ものがたり

愛媛県の海沿いを走る観光列車「伊予灘ものがたり」は、レトロモダンな内装に、地元の有名レストランが手掛ける食事、さらに沿線で出会う住民からの歓迎で人気です。全国で海に近い駅として有名な「下灘(しもなだ)」駅にも停車し、降りてみると列車と大海原しか目に入らない様子は非日常的。ホームのベンチに座ってみれば、ドラマの主人公みたいに何かが始まりそう、そんな予感さえしてきます。

 

満々と水をたたえる瀬戸内海に沿う列車

松山駅

「伊予灘ものがたり」は、愛媛県の県庁所在地である松山駅を拠点にしています。東京など関東方面からは羽田空港から松山空港行きの直行便が1日に10便以上発着していて便利。大阪など関西方面なら飛行機のほかに、新幹線で岡山駅まで行き、JR特急「しおかぜ」で瀬戸大橋を渡って、松山駅に向かう方法も。

 

伊予灘ものがたり

2014年より四国初の本格的な観光列車としてデビューした「伊予灘ものがたり」。2021年に惜しまれながら初代は引退し、2022年4月より二代目が以前の2両から3両編成にパワーアップして再び予讃線を走っています。

 

伊予灘ものがたり

松山から南に向かう予讃線は、瀬戸内海の伊予灘に沿っているので、水平線を一望できる時間も長く、まるで海と一緒に旅をしているようです。

 

木製インテリアをしつらえた落ち着きある車内

伊予灘ものがたり

海岸沿いや山に囲まれた自然の中ではもちろん、街中でもすぐに見つけられる鮮やかな赤い先頭車両が目印。1号車は、夕焼け空を連想させる茜(あかね)色に染まり、列車名の「ものがたり」にならって「茜の章」と呼ばれています。

 

茜の章

2名用の対面シートと、電車ならではの4名用ボックスシートを完備。前方の運転席も大型のガラス扉になっているので、線路がどこまでも続く様子が見られるのも、この車両の特徴です。

 

黄金の章

2号車は、太陽や柑橘類の輝きを示す「黄金(こがね)の章」で、インテリアも1号車と比べて明るみを帯びています。2名用の対面シートと、窓に面した横向きのシートが設けられ(そのうちの1席は車いす対応可)、常に車窓の景色を楽しめます。

 

陽華の章

二代目として新たに誕生した3号車の「陽華(はるか)の章」は、車両全体がまるまる貸し切れる特別仕様。沿線で感じる人のあたたかさと可憐な花々が名前の由来で、さらに「はるか」と読むことで時間や空間を示唆し、「大切な人と特別な時間を過ごしてほしい」という想いが込められています。

 

フィオーレスイート

イタリア語で「花」を意味する、「フィオーレスイート」という名前の通り、定員8名の空間は座席がソファーシートだったり、専属のアテンダントがいたりと随所に贅(ぜい)が尽くされています。

 

フィオーレスイート

貸切は2名から。友人や家族など大切な人と一緒に完全なプライベート空間で過ごす列車旅は忘れられない思い出になるはず。

 

道中を盛り上げる地元グルメ

オリジナルカクテル「黄昏」

「伊予灘ものがたり」では、清美のみかんジュースをはじめ、車体をイメージしたオリジナルカクテル「黄昏(たそがれ)」など、豊富なドリンク&フードメニューもぜひ堪能したいもの。日本酒の地酒飲み比べセットには、ぜひ名産のじゃこ天もご一緒に。坊っちゃん団子や大洲(おおず)名物の志ぐれといった地域の銘菓もそろっています。

 

門田フレンチ~伊予灘ミニコース~

特におすすめなのが、松山や内子の人気レストランが特別に用意したお食事。例えば「門田(かどた)フレンチ~伊予灘ミニコース~」は、地元の食材と旬にこだわった「瀬戸内フレンチ」をコンセプトに掲げる老舗「レストラン門田」が手掛けるオリジナルコースです。

 

門田フレンチ~伊予灘ミニコース~

玉ねぎのコンソメスープに始まり、しらすとそら豆のキッシュや特製みかんソースが添えられたローストポークなど彩り豊かなメニューが続きます。ソースにはみかんやマンゴーなどフルーツが多用されていて、愛媛の温暖な気候をそのまま味わっているよう。

 

門田フレンチ~伊予灘ミニコース~

最後に、熱々のココットに入った愛媛県産の真鯛とフレッシュトマトが登場。フタを開けると湯気と一緒にローズマリーの香りが鼻腔をくすぐり、やわらかな真鯛との相性も抜群。スープも旨みが凝縮していて、バゲットと一緒に完食です。

 

砥部焼

コースで登場したスープ皿やココット、さらに最後のコーヒーカップなど、どの食器もカラフルで食事をいっそう華やかなものにしてくれますが、実はすべて愛媛県の伝統工芸品である砥部焼(とべやき)で提供しています。

 

女性作家さんによる「とべりて」の作品

7名の女性作家さんによる「とべりて」の作品で、特にコーヒーカップは一つひとつのデザインが異なり、思わず欲しくなるかわいさ。車内販売で購入も可能なので、ぜひご注目ください。

 

伊予灘ものがたり

レストラン提供のお食事は2カ月ごとにメニューが変わり、事前予約制。JR四国の「みどりの窓口」などで申し込めるほか、JR西日本観光ナビ「tabiwa by WESTER」を通しても予約できます。乗車日の1カ月前から4日前までの受付なので、早めに予約しておくと安心です。

 

水平線の景色は下灘駅でクライマックス

下灘駅

「伊予灘ものがたり」は途中の駅には止まらず、ひたすら進み続けますが、唯一停車するのが「下灘(しもなだ)駅」です。

 

下灘駅

駅に降りてみると無人駅のため、駅員はおらず、ホームの青色ベンチだけが静かに佇む様子は情緒を感じさせます。

 

下灘駅
写真提供:JR四国

しかし、そのベンチこそが穏やかな瀬戸内の海を一望できる特等席。JRの青春18きっぷのポスターや、『男はつらいよ』、『HERO』などの映画・ドラマにも登場したことで、鉄道ファンだけでなく、幅広い観光客が車で訪れるほどの人気観光地になっています。

 

旗を振って出迎えてくれる

そのため「下灘駅」に近づくと地域の方々だけでなく、その場にいた観光客も一緒になって旗を振って出迎えてくれるのが印象的です。

 

下灘駅
下灘駅

停車時間は10分ほど。ぜひホームに降り立って、列車や看板と記念撮影を。海から吹く風が心地よく、気分も爽快になります。北西に面しているので、昼間は海の青がいっそう濃く映り、季節によって夕日が海に沈む様子も見られます。

 

JRと地域がつくる、観光列車

田園風景

下灘駅から南に下ると、徐々に海の青から山や田園風景の緑色が車窓を占め始めます。

 

旗を振りながらのお出迎え

そうすると耳にするのが「右手前方では住民の方々が旗を振りながらのお出迎えです」、「うちわに書かれた『だんだん』とは愛媛の方言で、ありがとうを意味します」といった車内アナウンス。

 

旗を振って歓迎

「伊予灘ものがたり」が通る時間になると、グラウンドや道路脇、玄関先にガソリンスタンドなど、たくさんの人たちが横断幕や旗を振って歓迎してくれるのです。どこで誰がいるかを事前にアテンダントが教えてくれ、さらに列車もスピードを緩める粋な計らいをしてくれるので、乗客も満を持して手を振りながら応えられます。

 

個性豊かな登場とあたたかな歓迎ムード

時には仮装をして笑いを誘ったり、しゃぼん玉を大量に飛ばして驚かしたりと、個性豊かな登場とあたたかな歓迎ムードに心もほっこり。この交流も「伊予灘ものがたり」が人気な理由のひとつなのです。

 

車内でも楽しいイベントがたくさん

ワゴン販売

車内の雰囲気がひと段落すると、今度はアテンダントがおすすめのお土産などをワゴンに乗せて登場。乗車中に購入できる「伊予灘ものがたり」のオリジナルグッズは旅の記念にぴったりです。

 

伝統工芸品の伊予水引をあしらったピアス・イヤリング

お食事で登場した砥部焼のコーヒーカップ&ソーサー(1セット5,000円)に加え、伝統工芸品の伊予水引をあしらったピアス・イヤリング(各2,200円)は、日常生活にそっと彩りを添えてくれます。

 

クリアファイルやパスケースなど

「伊予灘ものがたり」のロゴマークが入ったグッズもあり、クリアファイル(350円)やパスケース(1,500円)など品ぞろえも豊富です。

 

1号車と3号車両方の顔もそろってるキーホルダー

特に人気なのが、ロゴマークに加え、1号車と3号車両方の顔もそろっているキーホルダー(1,300円)。一度見たら忘れられない「伊予灘ものがたり」のロゴマークですが、これは太陽が海に映る様子と、愛媛県の柑橘をイメージしています。

 

乗車記念のプレート

目的地に到着する頃になると、乗車記念のプレートを携えてアテンダントが再登場し、記念撮影の時間が始まります。お食事の準備に始まり、車内アナウンス、さらに写真撮影と至れり尽くせりのおもてなし。優雅に振る舞うアテンダントも「伊予灘ものがたり」に欠かせない存在です。

 

あなたはどこ派?到着地の観光スポット

松山駅

「伊予灘ものがたり」は、松山駅、伊予大洲(いよおおず)駅、八幡浜(やわたはま)駅のいずれかに到着しますが、同じ愛媛県といえど特徴が異なり、どれも観光先として魅力的です。

 

みかんジュースを飲み比べ

松山は四国で1、2を争う最大の都市で、松山城を中心に市街が広がります。近くの商店街には、みかんジュースを飲み比べできるショップや、地元住民に人気のお茶スイーツがあるカフェなど、散策が楽しいエリアです。

 

飛鳥乃温泉
飛鳥乃温泉

さらに日本最古の温泉として知られる道後温泉も同じ松山市内にあります。夏目漱石の『坊ちゃん』の舞台でもあり、明治時代に建てられた「道後温泉本館」は重厚感があふれる一方で、別館の「飛鳥乃温泉(あすかのゆ)」は飛鳥時代の建築様式を取り入れたやわらかな佇まい。正面には写真家の蜷川実花(にながわ みか)さんによる作品が公開されています(2024年2月まで)。

大洲城
大洲城

伊予大洲はかつて大洲藩の中心地として栄えた城下町で、町のシンボルである大洲城は「伊予灘ものがたり」の車窓からも望め、列車が通過する際は幟旗(のぼりばた)を振ってお出迎えしてくれます。

 
大洲の町並み

市内に沿って流れる肘川(ひじかわ)は、日本三大鵜飼いのひとつ「大洲のうかい」が行われる場所。また100年以上の歴史を持つ建物も多く残され、歴史的資源を活用したまちづくりの取り組みが評価され、国際的なアワードで1位を獲得したことも。

八幡浜
画像:PIXTA

北に伊予灘、西は宇和海と海に囲まれている八幡浜は、海上交易が盛んで、「伊予の大阪」と呼ばれた場所。新鮮な魚介はもちろん、皮や骨を丸ごとすり潰して揚げた「じゃこ天」の名産地でもあります。また傾斜地にはみかんの段々畑が広がり、日本農業遺産にも認定。電動アシスト自転車でみかん産地を巡るツアーも実施しています。

 

八幡浜みなっと
写真提供:一般社団法人 愛媛県観光物産協会

観光の拠点となるのが、道の駅・みなとオアシスの「八幡浜みなっと」。港のすぐ目の前という好立地で、水揚げされたばかりの海の幸が並ぶ市場には地元の人たちも通うほど。直営の食堂では、特製海鮮丼やお刺身定食が食べられるほか、炭火で焼く海鮮バーベキューも人気です。

 

「伊予灘ものがたり」の予約方法

伊予灘ものがたり

「伊予灘ものがたり」の予約方法は、乗車日の1カ月前から4日前まで。乗車券・特急券・グリーン券(3号車利用の際は個室グリーン券)の3種類の切符が必要で、全国の「みどりの窓口」もしくは「JR四国ツアー」のウェブサイトなどから予約できます。お食事を予約する際には、別途で食事予約券が必要なのでお忘れなく。

 

リピーターが続出の「伊予灘ものがたり」は1日に4便運行

伊予灘ものがたり

「伊予灘ものがたり」は朝いちに松山駅を出発し、午前中に伊予大洲駅に到着する「大洲編」、そのまま再び松山駅を目指す「双海(ふたみ)編」、午後になると松山駅から今度は伊予大洲からさらに先の八幡浜駅に向かう「八幡浜編」、また夕方に松山駅に戻る「道後編」の計4便が同日に運行しています。

 

伊予灘ものがたり

どの便も人気の下灘駅に10分ほど停車し、地元グルメを使用した豪華な食事を堪能できます。車窓に目を向ければ息をのむ伊予灘の光景や和やかな田園風景、その合間には地域住民の体を張ったお出迎えと息をつく間もなく変化。約2時間の乗車時間がドラマのようで、目的地に着くころには満足感でいっぱいに。赤と黄色の暖色を帯びた車体は、どうやら乗客の心もあたためてくれるのかもしれません。

 

伊予灘ものがたり

きっぷ・料金
乗車時期、区間、号車によって料金や必要なきっぷが異なる
・1,2号車:3,780円~(乗車券+特急・グリーン券)
・3号車(個室):2,280円x人数+28,000円~(乗車券+特急・個室グリーン券)
※2023年10月1日からは、特急料金を通年一律の料金で設定。また、グリーン料金および「伊予灘ものがたり」グリーン個室料金についても見直されます。
詳細・予約
JR四国「伊予灘ものがたり」

 

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取材・写真・文/浅井みら野

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