カリフォルニアで夫を看取り、二十数年ぶりに日本へ愛犬と帰国。“老婆の浦島”は、週の四日は熊本で犬と河原を歩き、植物を愛でる。残りは早稲田大学で、魚類の卵のように大勢の若者と対話する。移動の日々で財布を忘れ、メガネをなくし、鍵をなくし、犬もなくしかけた……思えば家族を、あらゆるものを失って、ここに辿り着いたのだった。過ぎ去りし日を噛みしめ、果てなき漂泊人生を綴る。(解説・ブレイディみかこ)
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2020(令和2)年単行本刊行。
伊藤比呂美さんは1955(昭和30)年生まれなので私より14歳上。
80年代に現代詩で「女性ならではの視点と言語感覚」の世界を開拓して非常に注目された詩人だった。私も小説を含め何冊か読み、とても感心した詩人であったが、その後の著作や動向をずっと追ってきたわけではない。
近年はSNSのXやFacebookでアカウントを見かけ、投稿は多くないがたまに見かけるので、ご健在のようだ。
本書は60代の「初老」となった伊藤さんの、最近の日常を反映したエッセイ集である。
エッセイ集と言っても、ついこないだ読んだ山本文緒さんのそれのような、ユルユルとした気安さとは違う。そうした面もあるが、根本的に文学関係の豊かな教養に裏付けられた高い知性が絶えずほの見える上に、やはり「さすが詩人!」と思わせられてしまうような、新鮮な文章展開があって、やはり感心させられた。
伊藤さんは80年代の「いかにも女性ならではの現代詩」でブームを作ったあと、たくさんエッセイ本を出していたようで、しかも何故かカリフォルニアに移住してイギリス出身の方と結婚し、子どもを産んだようだ。カリフォルニアに20年も住んで配偶者が死去、今度は早稲田大学で講義を持つために犬だけを連れて帰国。なぜか熊本に住んで、週3度東京に通う生活を送っている。ここが本書での伊藤さん。
こうしたいきさつには単純な好奇心をそそられるし、やはり才能ある作家(基本は詩人)なので、過去の伊藤比呂美さんの本も改めて読んでみようかと思った。
伊藤さんの近況を知りたかったので、新しい本でよかった。大学生3人が熊本に来た話と城さんの家の犬が嫉妬で体調を崩した話が興味深かった。
単独著は初めて読んだ。このひとの著書は訳書・日本霊異記のように、平気でエロを語るけどまるで神話を聴かされるように思える、ということで好きだった。自ら発達障害と言い、話があちこちに飛ぶ「語り」がとっても心地よいのは、私の中にその要素が多分にあるからかも知れない。
どんな本か、説明するのは難しい。近年ない編集者による名文〈本の説明〉をコピペする。
カリフォルニアで夫を看取り、二十数年ぶりに日本へ愛犬と帰国。“老婆の浦島”は、週の四日は熊本で犬と河原を歩き、植物を愛でる。残りは早稲田大学で、魚類の卵のように大勢の若者と対話する。移動の日々で財布を忘れ、メガネをなくし、鍵をなくし、犬もなくしかけた……思えば家族を、あらゆるものを失って、ここに辿り着いたのだった。過ぎ去りし日を嚙みしめ、果てなき漂泊人生を綴る。
あゝダメだ。コピペしてわかるのは、伊藤比呂美を知らない人に「読んでみようかな」という気にさせることはできない。魅力が伝わらない。「ともかく読め」という書き方は嫌いだ。そもそも、幾つか彼女と共通項があるから私に刺さるものがあるのであって、他の読者に刺さると思う時点で自らの傲慢さを告白するようなものだからだ。そうではなくて、共感しながら読むからこそわかる普遍性を、それはきっとあるに違いないと思うのだけど、どう書いていいのかわからない。こういう泣き言を書けば、同情して読んでくれると計算している自分も嫌だ。このエッセイの何処が凄いのだろう。
エッセイなので、小説ではない。けれども読んでいくと、彼女の半生を想像できる文章になっている。よくわからないけど、よくわかる。まるで既知の人に話すが如く、前夫や死別した夫や子どものことや友達の様々なヨーコさんが登場してきて、始まりのない日常が語られ、そしてオチのない物語がたった数行で終わる。これはほとんど「枕草子」の書き方じゃないか。あゝ自然てそういうモンだ。人間てそういうところがある。国はホント困ったもんだ。そんなことを思うのである。
解説のブレディみかこの『この「道行き」の相手は誰なのか』は素晴らしい解説なのではあるが、この約4000字以上を費やす分量だからこそ、展開できる内容なのであった。とりあえず解説から読め!とは言わない。それよりも、立ち読みで第一章を読んで、買うかどうか決めた方が、個人的経験からいえばよっぽど確かだと思う。
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