PETER MICHAEL WINERY / ピーター・マイケル
ソノマ郡だけでなく、世界で最もエキサイティングなワイナリーのひとつ
1987年の初ヴィンテージ以来、ピーター・マイケル・ワインナリーの使命は、適切な場所に位置した、最新の注意を払って手入れをした山の畑から、世界で通用する品質の独特のワインを、限られた量だけつくることだった。ワイン醸造哲学は新古典主義と定義づけられるだろう。新世界と旧世界の知識や伝統の最高の部分を結合させたものだ。新世界の技術や、ワイナリーや畑での試行錯誤の自由が、過去たったの15年でワインの品質に信じ難いほどの進歩をもたらしたことには反論の余地もない。ピーター・マイケル・ワイナリーにおける旧世界での古典的な手法(ブドウを手で選別すること、土着の酵母で発酵させること、ワインを濾過しないこと)は、フランスの最高の生産者たちにならったものだ。それは最低限の介入しか行わないやり方であり、自分たちのワインが畑を最も自然に、そして純粋に表現していることを保証するものである。
ピーター・マイケル・ワイナリーは、カリフォルニアでも最高のワインづくりの天才たちがその門戸を叩いている。例えばヘレン・ターリー、マーク・オーバート、ヴァネッサ・ウォン、そして現在ワインメーカーとして働いているブルゴーニュ出身のリュック・モルレなどだ。
1980年代終わり頃、ピーター・マイケル・ワイナリーは、ブドウに付着する天然酵母を使って発酵を行う点でパイオニアであった。その結果、ワインは香りの複雑性を増し、驚くべき舌触り、まろやかさ、余韻の長さが生まれた。当時、この自然の「土着の」技術を称えるべく、彼らはこれを「キュヴェ・インディジーヌ」と名づけてワインのラインナップに加えたが、現在ではピーター・マイケルのすべてのワインにこの手法が採用されている。
この手法に熱心に取り組んだ結果、ピーター・マイケルはソノマ郡だけでなく、世界で最もエキサイティングなワイナリーのひとつとなった。英国人であるサー・ピーター・マイケルには、ワイン醸造を監督させるために、聡明なヘレン・ターリーを雇い入れるという先見の明があった(ターリーは現在このワイナリーを辞めて、自身でワインをつくり始めている)。現在の畑管理・醸造チームは、ターリーのワイン醸造哲学を引き継いでいる。現在の、そしてこれから出荷されるワインはすべて、まぎれもなく輝かしいものばかりだ。格別なソーヴィニョン、複数の、深遠なまでにリッチなシャルドネのキュヴェ、そしてボルドースタイルの、高級感があって複雑な赤ワインを生み出されるワイナリーはめったにない。
ピーター・マイケルの最高級のワインはすべて、シャルドネも含めて、熟成のプロセスに有害であるとして濾過せず瓶詰めされる。その良い例をあげよう。ピーター・マイケルではシャルドネ・モン・ピレジール1988年のキュヴェを2種類生産した。ひとつは濾過したもの(商業的に買われるのはこちらだろうと思われた)で、もうひとつは濾過をしないものだった(ヘレン・ターリーがラベルに赤い点をつけたため、レッド・ドット・キュヴェと呼ばれた)。どちらのワインも、瓶詰めの際の取扱いを除いては、全く同じワインだった。1994年にワイナリーを訪問した際、私は両方のワインを味わったが、濾過したほうは生気に欠け、ブーケには果実味が感じられず、風味は余韻が短くコンパクトであった。濾過しなかった「レッド・ドット」のほうは蜂蜜をかけたかのようで、生気にあふれ、リッチであり、新鮮さや果実味を全く失っていなかった。
ピーター・マイケルのプロプライエタリー・レッドであるレ・パヴォットのブレンド比率は年によって異なるが、通常は少なくとも70%のカベルネ・ソーヴィニョン、5~15%のメルロそして5~15%のカベルネ・フランから成っている。フレンチオーク樽の新樽比率は60%である。生み出されるワインは、カリフォルニアのどんなカベルネ・ソーヴィニョン主体のワインよりも、構造が感じられてリッチで複雑なサン=ジュリアンやポイヤックを思わせる。しかし、ほとんどのボルドー・ワインよりも肩幅が広く、深みがある。読者の方は、レ・パヴォットはすぐに消費できるような、早熟でフルーティなスタイルのワインではないことを念頭に置くべきだろう。これは長期間保有するためにつくられた、リッチでフルボディの、複雑で慎ましいワインだ。とはいえ、ピーター・マイケルのレ・パヴォットは非常に成功した、前代未聞の連続したヴィンテージを享受している。
読者の方は、ナパ/ソノマの郡境界からも遠くない、美しいナイツ・ヴァレーに位置するこのワイナリーを、是非訪問するべきだ。品質は並み外れており、ワイナリースタッフの肩入れや才能は称賛に値する。
『ロバート・パーカーが選ぶ世界の極上ワイン』より抜粋
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