






企画・文章:文具ライター武田健
しかも、老若男女から愛される作品は一つや二つだけではない。「銀河鉄道の夜」を始めとして、「注文の多い料理店」「セロ弾きのゴーシュ」「風の又三郎」など、童話という形ではあるものの、子どものために書かれた、というよりも子どもにはむしろ難解で、大人が読むのにちょうど良い童話、という感じもする。
なので、「コトバノイロ」シリーズで宮沢賢治の作品を取り上げることになった時に果たしてどの作品がふさわしいか、ということをまず考えた。

つまり、宮沢賢治の代表作がそれだけ多いということなのだが、やはりその中でも群を抜いているのは「銀河鉄道の夜」なのではないかと思い、この作品を取り上げることにした。 その後、様々な創作に影響を与えたこともあるし、この作品を子ども時代に読んだ人であれば、誰もが銀河の空に憧れを描いたかもしれない。誰もがそれぞれの銀河鉄道を自分の心の中の夜空に走らせていたに違いない。 そんなことを考えながらぼくは色を選定した。 「銀河鉄道の夜」は実は童話にしてはとても暗い作品だと思う。物悲しさが作品全体の根底に流れている。大人になった今、どんな作品だったか思い出そうとしても、決してキラキラした銀河の物語、という印象はほとんどぼくの中にはない。作品のあちこちに、断片的に人間の生きていく寂しさのようなものが見え隠れしたのを子ども心に感じていた。
大人になって久々に読み直しても、やはりこの作品全体の哀愁漂う雰囲気はそのままだった。いや、むしろ子どもの頃と比べて、様々な経験を経ただけあって、余計に、その寂しさというか、悲しみのようなものが、痛々しいほど感じられるようになった。
さて、この寂し気な雰囲気をどのようにして再現すれば良いのだろうかということをぼくは考えた。 ベースとなる色は夜を表す濃紺と決めていた。そこを走る銀河鉄道はどんな色か、そして、その電車に乗っている登場人物たちの気持ちをそこに合わせていったら、どうなるか。
そこから生まれたのは少し明るめの紺色だ。
しかも、グレー寄りではなく、青よりのブルーグレーとでもいうか。
細字で書いてもブルーであることがわかるくらいの明るさを保ったのは、悲しみの中に主人公がそれを乗り越えて幸せのために生きていこうと誓っているから。そこに希望が見える。それを少しの明るさで表現したいと思ったのである。
この夏、もう一度、この作品とじっくりと向かい合いたい。そして、気になる言葉をこのインクで書き出してみたら、きっとまたこの作品の別の一面に気づくかもしれない。



