鋭くも愚かしくも聞こえる問いをつねに発している高校生サヤは、ある日の放課後、喫茶店で謎のイギリス女性と出会ってひきつけられる。クラスメートのカツオは、フィリピン人の混血少年と性関係をもちつつも、太陽を崇拝する青年への興味を抑えられない。あっちへこっちへと転がりながら、はからずも核心へと向かってゆく少女と少年の日常を描く、愉快かつ挑戦的な最新長篇。
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「男の顔には、怒りの予兆のエラが立っている。プラットホームで化粧するな、とその顔に書いてある。」
冒頭のこのセリフは「令和」の「若い男性」である私には2重の意味で新鮮である。ナンパ、キャッチ、ぶつかり、これらは私に無縁のものだ。何なら、ティッシュ配りのバイトさんや道に迷った人もなかなか私をターゲットにはしない。少なくとも私なら、私は選ばないだろう。そんな人生を歩んできたので、女性のこういう体験は新鮮に映る。それに加えて、本小説は2002年に出版されている。まだ物心ついて間もない、私が知らない時代の話である。この頃はまだ、都会の他人同士が少なくとも今よりは関わり合っていた時代、というと大袈裟なのだろうか。そもそも人と人の関わりが生じなければ小説が成立しないと言ってしまえばそれまでだが、今、何気ない日常を描こうとした時に、プラットフォームのメイク直しに注意するおじさん(この後こういう展開になるのだ)は出てこないだろう。そういった意味で新鮮なのである。
読みやすいけれど、感想を書くのは難しいです。
物語の台風の目はカツオだったように思いました。「無能でも、変な運がこびりついている人というのがいる」とは神経症のコンドウを評したカツオの言葉ですが、カツオを含め、登場人物たちは皆どこか変な運に巻き込まれています。カツオが結んでしまったのだろうなあ。
そして、それを病んだナミコが嗅ぎつけて、自分の信じる捻じれた、でも完成された時間の中に閉じ込めてしまった。
サヤカが深入りせずに済んだのは、イザベラのように旅行者だったから、かもしれません。
◆むむむむむ。高校生を書いても多和田葉子だった。世界とのズレに迷子になるアリスたち。おうちに帰ることのないアリスたち。◆扱う題材は他作に比べ具体的で理解しやすいが、デリケートな国家や性愛などの話題を言葉遊びで扱ってしまうのはやや軽率ではと思われる記述も多い(読んでいて「多和田葉子、チャレンジャー!」と何度思ったことか)。ぱしっと絵になる断片もなくはないのだけれど、ちぐはぐにやっつけでストーリーにしてしまっている感じ。もっと練ることができるのでは。全体的には多和田葉子の良作とはいえないというのが正直な感想。無論、デリケートな話題を言葉遊びとしてだけ用いているのではないけれど、すべての読み手が多和田葉子の心の襞にまで寄り添ってくれるわけではないものね。
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